「私の夢」という統一テーマに絡めて実現できたらいいな、でも多分できないのだろうなと思っていることをお話しします。
「テキストの映画化」ということですが、映画化したいテキストは『ストリート・コーナー・ソサエティ』です。日本語でいうと「街角の社会」で、そういう名前の社会学の本です。ウィリアム・フート・ホワイトというアメリカの社会学者が1943年に出版しました。ボストンのイタリア系移民が住むスラム街に関する研究書で、参与観察という調査方法が特徴です。参与観察とは、対象となる集団の活動に長い期間参加して、その活動を記録するというものです。ホワイトさんは20歳代の頃にイタリア系移民の経営する食堂に住み込むなどして、3年半も調査を続けました。そして、この本のなかでホワイトさんは調査のいきさつを100頁近くかけてかなり詳しく紹介しています。この部分が調査方法論なのですが、調査方法論というよりは、未知の世界に飛び込むホワイト青年の物語として非常に魅力的で、この部分を映画化したら面白いだろうなと思っているのです。これが映画に向いていると思う理由は二つあって一つめは、1940年前後のイタリア系移民の居住地域というのが、映画の舞台として非常に魅力的であるという点です。皆さんがよくご存じのイタリアのマフィアを描いた映画『ゴット・ファーザー』ですが、この映画の時代設定がちょうどこの頃でした。『ゴット・ファーザー』のパート1、2は1930年代から50年代くらいまでのイタリア系移民の街の様子がいきいきと描かれていました。そんな風景を撮影できたらいいなと思うのですが、今そういう街並みはなかなか残っていないので、撮影は大がかりなセットがないと無理かなと思っています。太秦の撮影所あたりではちょっときついかもしれません。
そして理由の二つ目です。この本はアップタウンの青年である作者のホワイトさんがダウンタウンの青年たちと出会ってカルチャーショックを受けつつ、次第に打ち解けていくという、いかにもアメリカ映画という感じの出会いと冒険の物語として読むことができます。この本では、ホワイトさんがスラム街の青年たちと仲良くなろうとする際の失敗談がいろいろ語られています。たとえば、大学の講師に「現地の女性と仲良くなると調査がうまくすすむよ」とアドバイスされて、それをその通り実行し、酒場でナンパしようとしたら連れの男性に睨まれてしまったり、やんちゃな若者の会話に無理矢理入ろうとして下ネタ話をしたら、「そんな話はあんたには似合わないよ」といわれてしまったり、かといって、社会学の話を始めたらかなりさむ〜い雰囲気になったとか、そういうことが書いてあります。また、現地の野球の試合でホワイトさんが活躍したことで、やっと仲間に入れてもらえるようになったというような場面もありました。要するに、この本は異質な場所で育ってきた若者同士の出会いと友情の物語として読むことができます。アップタウンのインテリ青年である作者のホワイトさんは現地のドックという若者と信頼関係を結んだ縁で、現地のさまざまな青年たちと交流し、調査を成功に導いていくことができたのです。この辺りはディズニーのアニメ映画『わんわん物語』に似ているなと思いました。『わんわん物語』は、アップタウンの飼い犬とダウンタウンの野良犬の出会いと愛の物語でした。
さて、授業でも「この本を映画にしたいな、映画が無理なら漫画にでも……」という話をしたことがあります。すると、その数年後、卒業生からメールが来ました。「漫画家のたまごと知り合いになったよ、紹介しようか?」というものでした。大変嬉しかったです。そのときは「目処がついたらね」と返事をしたきり、未だにそのままになっているのですが、夢は語ってみるものだと思いまして、今日もそのつもりでお話させていただきました。その『ストリート・コーナー・ソサエティ』という本は翻訳もでています。読んでいただければ、きっと今日の話を納得していただけるかと思います。
『佛大通信』Vol.556(平成24年1月号)より転載
