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研究室訪問

「ことばの楽しさ」を
多面的に取り出すことが、
文学を研究することなんです。

愛媛県といえば、言わずと知れた俳句王国。そこに生まれ育った坪内先生も、高校時代から句作し、投稿してきたそうですが、本当に好きだったのは、コムズカシイ現代詩とか。しかし現在、句集は10冊以上を上梓し、評論、エッセイも30冊を越えるその文学活動、その研究態度は、俳句との付き合いから穫ち得たもののようです。

著書
坪内稔典 教授(文学部 人文学科)

専門の詩歌研究に進まれたきっかけはどのようなものでしょうか。

大学2年生頃から、まわりに俳句をやっているのがあまりいなくて、本気でやったら面白いかもしれないと思い始めました。卒業論文は「季語の発生」というものでしたが、修士論文は「萩原朔太郎」でしたけどね。

学校を終えて女子校の教師をしていた20代後半、何をしていいのかわからなく、ウツウツとしていた頃ですが、パチンコは好きでした(笑)。これが私にとっては幸いでした。ある日パチンコで勝った。神戸のセンター街に後藤という古本屋があったのですが、その店先に、改造社版の子規全集22冊があり、それを買った。7,800円、ちょうど勝った額です。僕は「水ぶくれの子規全集」と呼んでいます。数冊が水を含んでいたんですよ(笑)。じっくり読むと、子規は面白い。楽しいパチンコで始まった子規、あるいはその周辺の研究、道が開けてきたという感じ。僕にとっては特権的な出来事です。

文学は基本的に楽しいものであるということ、パチンコと同じで楽しくなければいけない。だから文学の研究もまた楽しくなければいけないんです。そして、「ことばの楽しさ」を多面的に取り出したい、ということなんです。

「ことばの楽しさ」とは、どういうことでしょうか。

作者はある種の感動を伝えようとして作品を生み出しますが、それは自分中心ということです。俳句を作っていてわかったのは、そうではないのではないか、ということ。

最新刊は、日本全国カバ紀行とカバにまつわるエッセイ
(上)佛教大学主催の「小学生俳句大賞」は、副賞として「坪内先生の授業」が付く。
(下)最新刊は、日本全国カバ紀行とカバにまつわるエッセイ。

句会というのは無署名で、つまり作者名を隠して、作品について出席者全員で批評・鑑賞するわけですが、色んな人が色んなことを言う。あることば(作品)を、読者が受けとめ、世界を作り出していく。そしてそれが作品に返ってくる。この往還というのが、特に詩歌においては最も面白いものであると考えるようになったんですね。読者が作品をもう一度作り直す、あるいは読む側、受けとる側が作る側の力と同じぐらい大事だろう、というのが僕の研究の立場です。

別の言葉で言えば、研究とは実証的・客観的でなければならないという考えがありますが、ことば(文学)の研究においては、ことば(作品)の面白さ・魅力、その力を取り出し、それを伝えることでなければならない。いきおい、テーマや文体も魅力的であり、作品をしのぐぐらい面白くなければならないわけです。だから、僕の授業は、自分で言うたらアキマセンが(笑)、面白いと思いますよ。何が出てくるかわからない、と学生も思っているでしょう。しかし学生たちの文学に対する考え方を壊す役目を僕はしているんです。作者中心・感動中心ということではなく、文学に対する視野を広げることが大切なのですから。

通信教育生にメッセージをお願いします。

好きなこと、楽しいことを意識的に持てばいいと思います。その対象はたいしたものでない方がいい。実際、僕のパチンコは、品がよくない、金がかかる、低次元だ、と思われていますが、しかし、それに意識的に打ちこむことで、世界が広がっていくんですよ。

僕はパチンコに次いで、あんパン、カバ、柿に打ち込んでいますが(笑)、それはワクワクすること。するとそれを伝えようとすることばの根ッコがワクワクする。作者(僕)から言えば、読者を意図的に引き寄せている、と言えます。読者としては、パチンコ屋で横にすわるという雰囲気、接近し易いだろうと。

坪内稔典 教授

通信教育の人たちは社会人の方も多く、僕の考えをよく理解してくれていると思います。彼らは学問することを楽しみにしている人たちが多いですからね。

「よく楽しむこと」とは「よく勉強すること」と一緒だと思ってもらえば嬉しいですね。子規は野球にしろ食べることにしろ、生きることを楽しんだ。悲惨な病気も楽しんだ。「生きるとは楽しむことだ」という彼の人生を近々書こうと思っています。


『佛大通信』Vol.520(平成21年1月号)より転載

PROFILE

つぼうち としのり

1944年愛媛県生まれ。立命館大学大学院文学研究科修士課程修了。専攻は日本近代文学(詩歌)。俳句グループ「船団の会」代表。あんパン、柿、河馬を愛す。著書に『カバに会うー日本全国河馬めぐり』(08年)、『季語集』(06年)、『柿喰ふ子規の俳句作法』(05年)、『俳人漱石』(03年)(以上岩波書店)、『俳句のユーモア』(講談社、94年)ほか多数。




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