Neo Kyoto 川崎仁実 VS 岡本晴美 時間が歴史に…、現在進行形の美 日本初の盆栽美術家
盆栽美術家 川崎 仁実
Interviewer 岡本 晴美 先生
社会福祉学部社会福祉学科
 
> After Interview

「年齢を重ねるほど価値が深まる盆栽。
 生き字引のようなおばあさんになりたい
 という人生観とリンクしました」
  川崎

日本初の「盆栽美術家」として盆栽の世界観をたくさんの人々に伝えたい、と国際的かつ独創的な活動を展開しておられる川崎さん。子ども一人ひとりの自発的な力を引き出す社会環境作りをと願い、児童福祉研究の道に入られた岡本先生とのご対談は、「育てる」というテーマに互いの共感が響き合う奥深い内容となりました。
川崎さんの写真

出会い 日本が誇る伝統美に一目惚れ! 埋もれてしまった盆栽の魅力を紹介

岡本 児童福祉と盆栽の仕事には、「育てる」という点で何か通じるものがあるのではと感じ、お会いするのを楽しみにしていました。
川崎 私もです。今日は岡本先生が児童福祉を専門としておられるとお聞きしていましたので、人間に例えると児童期にあたる、樹齢約30年の盆栽を持参してきました。
岡本 針金のようなものを巻いているようですが、枝の一本一本を矯正しているのですか?
川崎さんと岡本先生の写真
川崎 この針金かけは、枝が柔らかく言うことをよく聞く若木のうちに、枝が良い方向に育つよう行ういわゆる「しつけ」です。盆栽が嫌いな方はこの様子を虐待だと感じるようですが、この作業は自分の好きな形を作るためだけに行うのではありません。枝同士が重ならず均一に太陽の光を浴びることができるよう調整して換気を良くし、外した後は自分の力で健やかに成長していけるよう方向づけるために巻くのです。枝が大きく太く育ってから行っても、なかなか言うことを聞いてくれません、時には枝を折ってでも矯正することがあります。盆栽の「しつけ」は健やかに育つための「道しるべ」。その点は子育てと似ているのではないでしょうか。
岡本 確かに、虐待としつけは違いますね。虐待は連鎖すると言われますが、連鎖しない場合もあります。その分かれ道は何だろうと考えた時、その人を取り巻く社会の中で、自分の歩むべき「道しるべ」を見つけることができるような、人とのつながりがあったかどうかということが気に掛かります。社会福祉では、その人がその人らしく生きられるように、その人自身の人生を自らが歩むことができるように環境を整えることにも気を配ります。その人自身の中に歩もうとする「力」があることを信じて、支援を行います。まさに盆栽作りに通じるものがありますね。ところで、川崎さんが盆栽美術家へと歩まれたのはどのような理由からなのですか?
川崎 高校生時代から、生き字引みたいなおばあさんになりたいという夢がありました。例えば、災害などで物を全部失ってしまっても身に付いたことは残る。身に付けるなら伝統的な日本文化だと思い、日舞を習ったりお能を見に行ったりしていて、その道中で偶然、盆栽展のポスターを見かけ学校帰りに一人で見に行ったのです。価値も見方も解りませんでしたが、初めて樹齢数百年の盆栽に出会い、時間を超越した存在に圧倒されつつもうっとりと見つめてしまいました。それを見た盆栽雑誌の編集長が珍しい高校生だなと感じて、盆栽雑誌のモデルをやらないかと誘ってくださったことがきっかけになったのです。
岡本 盆栽雑誌のモデルをしながら盆栽の勉強をされていったのですね。どのような方法で学んでいかれたのですか?
川崎 職人の方々に直接、質問していきました。最初の頃、盆栽の価値はどうやって決まるのか聞いたことがあって、盆栽はまずは古く樹齢が高いほど良いものだと教えてもらいました。人間は年を取る=「老い」になるんですが、盆栽は年を取るほど価値が出る。時間を「歴史」に変える生き方を盆栽はしていたので、一生盆栽に関わる仕事をしていこうと決めたのです。
岡本 ご自分が目指されていた生き方、つまり、年を取るほど価値が積み重なる「生き字引みたいなおばあさん」と盆栽がリンクしたわけですね。価値が積み重なるという意味では、盆栽は「現在進行形の美」ともおっしゃられていましたが。
川崎 盆栽は生き物で常に成長しています。そして、その時の成長に合わせた取り敢えずの完成形を造るのでそう言っています。


魂の力 盆栽美術を支えるスピリット それは、エンパワーメント!!

川崎 岡本先生は、どのような経緯を経て児童福祉の道へ歩まれたのですか?
岡本 学生時代に家庭教師などのアルバイトやボランティア活動を通じて、多くの子どもたちやその親御さんに関わってきました。中には、学校での問題から不登校を選ばざるを得なかった子ども、家庭環境の中で苦しい思いを抱えている子ども、自分の苦しさ、思いを誰にも相談できずに悩んでいる多くの子どもたちに出会う中で、何かできることはないのか、こんな状況になる前に何かできることがあったのではないか、と子どもたちが置かれている環境を思い切なくなることが度々ありました。何かできたかもしれないという後悔と、これから何かできるかもしれないという希望のもとに、社会福祉を学ぶことを選びました。子どもたちや家族に関わること、それは私にとってライフワークだと思っています。
「古民家ギャラリー いい樹なもんだ」の写真
今回、対談が行われたのは「古民家ギャラリー いい樹なもんだ」
http://www.geocities.jp/g_iikinamonda/
川崎 盆栽は独特の文化だけに、言葉でその世界観を伝えるのは難しいのですが、先生とお話ししていると、社会福祉と盆栽との共通点が浮かんできて、社会福祉について勉強したくなってきました。
岡本 社会福祉の分野では、「エンパワーメント」という言葉をよく使います。この言葉は、出口が見えず行き詰まったりした時に私を励まし支えてくれます。エンパワーメントとは、人にはもともと生きるための力が備わっていることを意味しています。誰かから与えられたり、身に付けたりするものではなく、もともとその人が持っている力です。私たちが本来の力を発揮できないとすれば、その力を奪うような、その力の発揮を疎外するような環境が社会の中にあり、環境を整えることが必要であることを教えてくれます。人は社会の中で生きており、社会との関わりなしに様々なことを考えていくことはできません。
川崎 盆栽を育てる姿勢と同じですね! ずっと探していた言葉に出会えた気がします。盆栽職人さんは、いつもその木の数十年後を想定しながら手入れをされています。「生き物が育つには時間がかかって当たり前」という概念のもとに、目に見えない鉢の中の環境を思いやりながら毎日水やりをし、植物の自然の力を引き出していくのです。そのスピリットがエンパワーメントなのですね。
岡本 すぐには成果が見えない努力を日々継続していくことは、大変だけれども大切なことです。
川崎 生き物はみんな一緒なんだなとよく思うのですが、人間だけが時間を短縮したりごまかしたりすることに長けています。そして疲れてしまった時に「本来の時間」に戻してくれるのが植物や自然の物なのです。特に、盆栽は「継続の結晶」のようなところがありますから。


真の学 全身で習い、盗み、吸収する それが本当に学ぶということ

川崎 私が尊敬している盆栽職人さんによると、昔は「水かけ3年」と言って弟子時代の最初の3年間は木に触れることもできず、来る日も来る日も、水やりしかさせてもらえなかったそうです。ほとんどの場合、弟子がその段階で辞めてしまうらしく、水やりの本当の意味に気付いた人だけが、仕事が面白くなって職人として残るのだとか。盆栽はしゃべらないうえに一本一本性格が違います。この木がいま水を欲しがっているかどうかということを見極め、それぞれの木に応じた水やりをしなければならない。不思議なことに、日々木の状態を観察していると、やがて鉢の中の見えない部分まで見えるようになり、根っこの状態が読めるようになるそうなのです。物事をじっくり観察することで、見えないものが見えるようになる。つまり、日々の観察力が「カン」につながるのです。
盆栽の写真
岡本 現代人は型に慣れ過ぎており、様々なことに「マニュアル」を求め、想像力が乏しい状態になっているように感じているのですが。
川崎 私も盆栽については手探りで学び始めましたが、盆栽は知れば知るほど私の好奇心を刺激し、世界を広げてくれました。「マニュアルがないから無理」なのではなく、自らが知ろうと努力し学んでいくこと。それが大事なのだと思います。盆栽の修行で言えば親方は手取り足取り教えてくれません。親方の仕事を常に見習い、技を盗んでは体得してくものだからです。ところが、最近の若い職人さんにはそういった勉強法が難しいらしいです。私も現代人ですから、学生時代に与えられた課題をこなす「こなしグセ」が付いてしまっていた時があります。
岡本 「自由に、好きなようにしていい」と言われると、マニュアル世代は何をして良いかわからなくなってしまうのかもしれませんね。ちなみに今後はどのような活動をなさりたいですか?
川崎 盆栽には「育てる」「鑑賞する」という二つの楽しみ方があります。今後は「盆栽鑑賞の楽しみ」も紹介しながら、学生も見に行きたくなるような盆栽展の環境を作っていきたいと思います。
岡本 川崎さんならではの発想で盆栽の素晴らしさをどんどん伝えていってくださるよう期待しています!


川崎さんの写真   「真の学びとは、マニュアルだけを頼らずに、
 自らが気付き吸収していくことだと思うのです」

                            ―川崎
本の写真 本の写真
川崎さんがモデルをされている『盆栽入門マニュアル』(右)と、デザインを手がけた『掌上の盆栽』(左)(いずれも近代出版)  
プロフィール
川崎 仁実  かわさき ひとみ
京都市生まれ。京都文教短期大学生活科学科建築専攻卒業。2002年より高校生時代から続けた盆栽雑誌のモデルを経て独学で盆栽を勉強し盆栽美術家となる。「盆栽=年配者の趣味」というイメージを一新すべく、展覧会やレクチャー、店舗でのコーディネート、批評など国内外でも幅広く活躍。(社)日本盆栽協会会員・日本水石協会会員・盆栽学会会員。
http://www.gendaibonsai.com/


After Interview
岡本先生の写真
「盆栽の“しつけ”は、その盆栽が持っている潜在的な力を
 十分発揮できるように行う職人さんの配慮なのですね」

                            ―岡本

盆栽を「現在進行形の美」と称する川崎さんの瞳には、盆栽への愛情があふれていました。「しつけ」をするのは、盆栽の枝一つひとつに対する配慮とその後の成長の可能性への想いからというお話が印象的でした。盆栽も人も誰かとの関わりの中で、日々成長していくことをしみじみと感じました。盆栽とは全く縁のなかった私ですが、「進化する美」の世界に足を踏み入れてみたいと思いました。
プロフィール
岡本 晴美  おかもと はるみ
2002年から佛教大学福祉教育開発センター講師、2006年より同大学社会福祉学部社会福祉学科講師。専門は社会福祉援助、児童福祉。
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『佛大通信』Vol.506(平成19年11月号)より転載

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